新刊
『長い午後に 無数の僕を追い求めて』
この写真集は国際的に活躍する韓国人写真家であるクー・ボンチャンが1985年から1990年にかけて、激動する時代の波にもまれる韓国をモノクロームのフィルムで写し取った作品をまとめたもので、撮影から約30年後の今回初めて1冊の本となった。長期にわたるドイツへの留学から帰国したクーが目の当たりにしたのは、1988年のソウルオリンピックに向けて大きな変革の局面を迎えた韓国社会だった。混沌の中で日々変化していく故郷に馴染み難さを感じつつも、ソウルの街を彷徨し部外者の視線で切り取ったイメージには当時のクーの心境が刻み込まれている。
― 出版社説明文より
1985年
6年間に亘る海外留学を終えて帰国すると
ソウルはすっかり様変わりしていた
際限なく溢れる車と人間の洪水、騒音
網膜に現れては消えるイメージの渦
建築ラッシュ、愛国心、虚飾そして虚栄
夜明けから最後のネオンが消えるまで
この都市は大海の波面のように絶えず喘ぎ続けていた
見知らぬ都市で僕は
未知の何かを追い求めて
ひとり、彷徨っていた
― クー・ボンチャン
80年代の政情の元で自由な表現活動は抑え込まれ、韓国民は海外への渡航を禁じられる。ヨーロッパの美術教育の現場で、制作能力を高めると同時に自己実現の過程を他者と共有するプロセスを重
んじることを学び、自らの繊細な美意識を作品に注ぎ込むすべを体得したクーさんの目に飛び込んできたのは、不自由と不穏な気配に包まれた粗野で暴力的な破壊の痕跡だった。閉塞の荒野で、クーさんは辛抱強く、心中に忍び寄りかねない諦念や落胆などの不純分子を排除する、自浄作用の手段を探した。カメラを携えて街を彷徨(さまよ)い、ありとあらゆる場所にレンズを向けたのだ。第3の眼であるカメラは、ときに盾となり、ときに銃ともなっただろう。
「自分自身を見つけようと試みたのだ」とクーさんは言う。自身を含めた現実を客体視することに努め、観察者の視座で歩き、荒廃の蔭間から蜃気楼のようにたちのぼる希望の放つかぼそい光を探し求めた。
― 本尾久子(curator/editor)
$38.51
税込- 判型
- 240 × 182 mm
- 頁数
- 252頁、掲載作品119点
- 製本
- ソフトカバー
- 発行年
- 2019年10月
- 言語
- 英語、日本語、韓国語
- エディション
- 1000