パヴェウ・ヤシュチュク 新刊写真集「¥€$U$」刊行記念展
イエス。人の性をとった神。キリスト教の中心人物。多くのキリスト教徒に、イエスは神の子であり神と本質を同じくすると理解されている。「¥€$U$」は現代大衆文化においてのキリストを表現したパヴェウ・ヤシュチュクの最新作である。
では、イエス(Jesus)と「¥€$U$」はどのように違うだろうか?実は何もかも違う。現代ではイエスはかつて生きていた人間というよりも、宗教の象徴的人物として認識されている。文化的には、彼は全ての美徳の化身であり、代表的な指導者という隠喩的な存在とも言えるだろう。一方、「¥€$U$」は宗教的観点からすると常軌を逸した作品である。
約10年間のオーストラリアと日本での海外生活を終え、2012年にポーランドに帰国したパヴェウ・ヤシュチュクは、母国の「民間信仰」に再び遭遇した。新約聖書のキリストと、現代大衆文化で表現されているキリストにあまりにも大きな落差と矛盾を感じ、逆カルチャーショックを受けたのだ。たまたま見かけた十字架の形のポケットナイフをきっかけに調査を始めた結果が一連の写真作品となった。タイトルの「¥€$U$」は作品に混在した霊性と商業性を示している。
宗教的なシンボルを取り入れた日常生活の品々は、現代のキリスト教における唯物論的構造の滑稽さと不条理性を露呈している。物欲の文化や聖遺物への崇拝を長らく批評されてきたものの、こういった商品は未だに生き残っている。しかも、現代の商業主義により状況は益々深刻になってきた。教会規則とは裏腹に、馬鹿げた運命を持ったグロテスクな物たちの大量生産は未だに許されている。イエス受難のペンダント、聖母マリアをプリントした下着や聖女マリアの形をしたチョコレート、風呂に浮かぶキリストと羊など…。パヴェウ・ヤシュチュクが着目した神聖と冒瀆が混じりあったグロテスクな光景は、宗教的価値観と商業主義的価値観から非現実的に結合したイメージ中心の「信仰」である。「聖なるイメージ」とは何だろう?資本主義が横行している現代において、これは宗教の唯一の生き残り方なのだろうか?という問を我々は提起されている。