吉本ばななさんより殿村任香『魂トリップ soul trip』への書評を賜りました
この度、小説家の吉本ばななさんより、殿村任香写真集『魂トリップ soul trip』への書評を賜りました。吉本ばななさんに厚く御礼申し上げるとともに謹んでここに公開させていただきます。
魂の見たもの
吉本ばなな『魂トリップ』という写真集はすごかった。
どこがどうすごい、というのを言えないほどだ。衝撃を受けた。
人の心の流れと外側の流れが完璧にリンクしているという真実を忠実に描いていたからだと思う。
写真集というものの意味が初めてわかった、くらいに思った。
殿村さんの写真はそのものすごい人生と同じく、普通に生きている人が決して見ることはないしどちらかというと見たくないものだと思う。
それはもちろん私も同じで、私の平穏な日常には彼女の写真に近いものは一個もない。情けないくらいにない。だからやたらにほっこりと言われてしまうのだろうけれど、とにかくない。
でも、私は深いところで知っているのだ。私も殿村さんも同じ高みを目指していると思う。だから生活や人生経験が全く違っていてもその一点でわかりあえる。どんなときにどう妥協しないで流されないで命がけでやってきたか、お互いの作品を見ると感じることができる。それが芸術の平等な地平だ。
芸術とは人が目を覚ますためにだけあるものだ。そして少しだけはっきりとした目で世界の美しさを見るために。
この写真集の、あたかも無造作に選ばれたかのような写真のひとつひとつに恐ろしい分量の感情と夢と絶望と希望が入っている。殿村さんはほんとうにすごいところまで行っちゃったな、と思う。Copyright © 2025 by Banana Yoshimoto