イギリス出身で禅フォトギャラリーの代表でもあるマーク・ピアソンが香港に居住していた2019年、香港返還以来最大の民主化デモが起こった。本書は当時香港街頭のさまざまな通りの壁に現れた抗議者たちの「声」が上から塗り潰された様を2019年10月24日から12月24日の間に撮影した作品で構成されている。ピアソンが自身で刊行していたZineシリーズ「Dying City」の5作目として『Hong Kong Ink』と題したミニブックを2020年に発表したものが原型となっており、今回はその完成版として一つ一つ手作業により伝統的な巻物のスタイルで仕立てられている。

周期ゼミは地中で13年または17年を過ごし、その後地上に出て数週間の命で交尾と産卵を行い、死ぬ。
2019年の後半の香港は混乱の時代だった。この非凡な都市はまたしても成長の痛みを経験していた。
2019年にはまた、政府が概して国民の利益のために善意をもって行動するという思い込みが甘かったという痛ましい現実を私たちは突きつけられた。この認識は2020年以降に世界中で課された前例のない制限によって裏付けられた。今振り返れば、これらすべてが必要以上に過酷であったことは明らかだ。
無垢な純真さの喪失を嘆くべきか、それともより皮肉な態度で理解を示すべきか?
2019年以前、香港では落書きは散発的だった。2019年の後半、突然、落書きが見える場所のあらゆる表面を覆った。コンクリート建造物、高架道路、堤防で構成された都市は無数のキャンバスと化した。
落書きをそのまま残すのは不適切だと判断された。おそらく落書きを除去すれば市民の考えも変わるだろうと。作業員の大群が熱心に落書き除去に取り組み、まず溶剤でインクの顔料を溶解した。数日後、新たに真っ白なキャンバスとなる塗料が塗り直された。落書きは完全に消し去られた。
数日間、セミの成虫の寿命よりも短い間、溶剤洗浄と無機質な新塗料の塗布の間のその期間に、魔法のような創造物が束の間息づいた時があった。真の香港現代水墨画が。

― マーク・ピアソン、2025年10月

― 出版社説明文より

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