本書は、2023年に第48回木村伊兵衛写真賞にノミネートされた写真展で発表された作品をまとめた、待望の写真集である。村越としやが2011年3月から福島県を撮影し続けてきたシリーズの第四作目にあたり、2023年の展示の際に厳選した写真を収録した。村越による手焼きプリントの繊細さを、オフセット印刷で可能な限り再現することを試みた、貴重な一冊となっている。

2011年3月の震災直後に現れた、鑑賞者の心理に働きかけるような何らかの意図や作為を持って撮影する膨大な写真や映像作品に違和感や疑問を持った村越は、「写真」という媒体の意味に対する思考を凝らしつつ、故郷である福島の原風景を探求し続けてきた。
村越のモノクローム写真の中には、空気が完全に静止してしまったような静寂とそこに響いている異様に大きな風の音が同時に存在している。その音の中で津波の被害で亡くなった人たちへの黙祷の声が聞こえ、その声はやがて人々の心に長く留まるだろう。

「村越さんの写真は、すぐに言葉になるような何かが写っているわけではない。写真のなかに手がかりになるものを見つけ、それを自分のほうにたぐり寄せながらなかに入っていくというプロセスをとる…これらの写真に写っているものに目で形が認められるものはごくわずかである。黒と白のあいだの階調が出ており、黒い部分も真っ黒ではなく、黒の奥になにかが潜んでいるようだ。目を凝らしていると意識の射程距離が遠くに伸びて、福島だと思いながら見ている自分の輪郭が薄れ、写真のなかの世界とひとつになったような感覚に引き込まれた。」

― 大竹昭子(本書あとがき「そこではない別のどこかの場所」より)

― 出版社説明文より

- 判型
265 × 230 mm
- 頁数
69頁、掲載作品45点
- 製本
ハードカバー
- 発行年
2025
- 言語
英語、日本語
- エディション
700
- ISBN
978-4-910244-50-1

Artist Profile

村越としや

1980年福島県須賀川市生まれ。

故郷の福島県を主な被写体に選び、人の持つ潜在的な記憶と自身の記憶、そして土地の記憶をなぞるように継続的な撮影を行う。

2011年の東日本大震災以降はより重点的に福島の撮影に取り組み、写真術を用いて風景の変化と矛盾、人々の視覚的な認識の違いなどを見出だそうとしている。

これまでに多くの写真集を出版、2009年には自主ギャラリーを設立するなど、写真を発表する手段、場についても意識的である。

日本写真協会賞新人賞(2011年)、さがみはら写真新人奨励賞(2015年)受賞。

東京国立近代美術館、サンフランシスコ近代美術館、福島県立博物館、相模原市に作品が収蔵されている。