東京深川生まれの大西みつぐは、1970年代より一貫して東京の下町中心にスナップショットの手法で時代の変化を写し取り、第22回太陽賞、第18回木村伊兵衛写真賞、そして2017年に日本写真協会作家賞受賞した。

本書『路上の温度計 1997-2004』は、大西が「世紀末」から「ミレニアム」へ突入する東京をカラーのリバーサルフィルムでとらえたシリーズを禅フォトギャラリーとともに新たな視点で制作した写真集。撮影当時から20年近くが経ったコロナ禍の現在との時代の連鎖を感じ、見つめ直した作品が収められている。

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90年代初めのバブル崩壊。その後にやってきた平成不況は「世紀末」の空気感を生んだ。期せずして95年1月には「阪神淡路大震災」が発生し、3月には「地下鉄サリン事件」も起きた。この世紀末という言葉は当時の流行語のように98年頃まで続く。それは都心の路上に出没し始めた「コギャル」や「ガングロ」といった新たなアイデンティティを持つ女の子たちへの好奇な視線にも通じていく。さらに若者文化は「ヒップホップ」というこれまで聴きなれなかった音楽さえもファッションを混じえ定着させていく。パソコンやインターネット、PHS、やがて携帯電話の普及というイノベーションを拍車として、人々は再び都心に回帰していった。

そんなゴチャ混ぜ感のある世紀末東京の路上を疾走すれば、なにかしらの唐突な出来事が向こうから押し寄せてきた。森山大道さんの「擦過」ではないが、被写体の方が堂々とこちらを刺激するといった時代だったように今にして思える。撮り手の私は、出来るだけ素直に撮ることだけを考えていた。そのためにカメラは中判645+28mm相当で、そのまま構えた状態でファインダーに見える「縦位置」と決めた。時代の突っ走りと、私の歳まわりの突っ張りがうまくスパークしたスナップショットは今見ても新鮮だ。

「世紀末」はやがて「ミレニアム」といった言葉にとって替わり、華々しいカウントダウンを経て新世紀に突入した。それはまた「I LOVE NEW TOKYO」の始まりでもあった。都内にはたくさんの高層ビルが立ち並び始め、億ションやらヒルズ族も登場してくる。全てが幻のような景色に思えた。この世紀の節目に際し、私自身の仕事の場も少し変化があった。簡単にいえば作家としての決意表明をした頃だったように思える。路上でスナップショットを撮る以外に道はなし!などとは思わなかったが、写真と社会を結ぶ糸を自分なりに考えていきたいと思った。よく考えれば、昨年来のコロナ禍は20年目の大きな節目といえる。世界、社会の歯車の動きが変わっていく。これは幻ではないが、再び夢と憂鬱とが交錯する路上に出でよということだろう。

― 大西みつぐ

-判型
200 × 200 mm
-頁数
120頁、掲載作品:107点
-製本
ハードカバー
-発行年
2021
-言語
英語、日本語
-エディション
700
-ISBN
978-4-910244-06-8

Artist Profile

大西みつぐ

1952年東京生まれ。1974年東京綜合写真専門学校本科卒業。1985年「河口の町」にて第22回太陽賞、1993年に「遠い夏」「周縁の町から」他で第18回木村伊兵衛賞受賞。また、2017年には長年の功績に対して日本写真協会作家賞を受賞した。主な著作に『WONDERLAND 1980-1989』 (1989年、FROG)、『遠い夏』(2001年、ワイズ出版)、『川の流れる町で』(2016年、ふげん社)など多数ある。

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