1970年代末頃までには、日本の戦後復興の喧騒や学生運動、国際社会を揺るがせたテロなど一連の騒動も一段落していました。1980年代前半のやや落ち着いたこの雰囲気も、長かった昭和の時代が終わりを迎え、この後間もなく怒涛のように押し寄せてくる日本のバブル経済前夜の、束の間のものでした。

さらに進んでいく西洋化に加え、近代昭和と現代昭和(戦前、戦後)が混在するこの東京の現実は、ゆったりとした伝統的なフランドル文化の中での4年間の留学を終えて、1980年代に日本に戻った私にとって、視覚的には捉えようの無い無秩序なものに思えました。

自国で自分の表現を実現したいとあがいていた私は、このカオスを避けるように、昼間の喧騒の消えた夜の光りを追うことから開始しました。

− 柴田敏雄「The early 1980s」より

Artist Profile

柴田敏雄

柴田敏雄は日本の写真家。東京出身。

大学院修了後に、ベルギー文部省より奨学金をうけ、同ゲント市、王立アカデミー写真科入学、写真を始める。その後、日本国内および海外でも個展を開くなど活躍中。自然の中にある人工物を写した写真が特徴的。