禪フォトギャラリーでは、11月18日より12月22日まで渡辺眸写真展「TEKIYA 香具師」を開催いたします。

1960年代末、当時写真学校で写真を学んでいた渡辺が地元のお祭りの前日に地割りをしていたテキヤの男たちにたまた ま出会って衝撃を受け、彼らを約4年間に渡って追いかけ撮り続けたシリーズが半世紀ぶりに蘇ります。 モノクロ作品約30点を展示いたします。

また、地湧社より写真集『TEKIYA 香具師』(3132円税込) が展覧会に合わせて刊行されます。

まだ写真学生だった頃、7月1日の富士山の山開きに呼応した地元・十条の縁日「お富士さん」を撮ろうと、その前日 ロケハンに行った時であった。商店街から100メートルほどの長い道に不穏な群衆が動いていた。時に荒々しく渦巻く 男たちの熱気と狂気と惰気。私はすぐに自宅に戻ってカメラを取り出し、その場にとって返した。夢中でシャッターを 切った。10分近く経った頃だろうか、私は男たちに囲まれていた。「あんた写真なんか撮ると半殺しになるヨ」と怒鳴 るオバさんもいた。一発くるかと思っていると、そのうちの親分格らしい一人が「俺を撮ってくれ」と言いながら体臭 をムンムンさせて近づいてきた。私にとっては渡りに船だった。この機会から私のテキヤ街頭写真師が始まった。  

縁日といえば露店がなんといっても本命だ。アセチレンガスの臭いと共に金魚すくいや綿あめの露店が思い浮かぶ。 三尺、六尺単位の屋台に、今はそうでもないが、安物のネタを並べ、あの独特の口上で見るものを華やいだ気分に駆り 立てる街頭商人たち。テキヤ、香具師、宝水師とも呼ばれる。彼らは固定した店舗は持たず、全国の祭り、行事、縁日 を求めて動き回っている。だが、最近ではデパートやスーパーなどの資本が地方に進出し、路面からデパートの屋上で の特設縁日に客を引き寄せたりするなど、彼らのマーケットはだんだん縮小されているという。しかし、気をつけて見 ると、東京でさえどこかで祭りや縁日の市がいまだに立っている。市は平日と高市の二つに大別される。平日は毎月定 まった日に商える、高市は祭礼などのような特殊な市、主に神社仏閣を利用して商う。「俺たちは純然たる商人だ」と いうのが彼らの誇らしげに言うセリフである。  

ー渡辺眸

Artist Profile

渡辺眸

1968年、東京総合写真専門学校卒業。卒業時の制作展で「香具師の世界」を発表し、その後も撮り続けて「アサヒグラフ」「写真映像」に作品が掲載される。同じ頃、新宿の街を撮る中で全共闘ムーヴメントに出合う。'72年にアジア各国を旅しインド、ネパールを初めて訪ねた際、魂の原郷と感じてしばらく暮らす。帰国後「命あるもの」へのメッセージとしてスピリチュアル・ドキュメントを軸に撮影している。写真集に『天竺』(野草社、1983年)、『モヒタの夢の旅』(偕成社、1986年)『猿年紀』(新潮社、1994年)、『西方神話』(中央公論社、1997年)、『ひらいて、Lotus』(出帆新社、2001年)、『てつがくのさる』(出帆新社、2003年)、『フォトドキュメント 東大全共闘1968-1969』(新潮社、2005年)、『1968新宿』(街から舎、2014年)、『東大1968-1969ー封鎖の内側』(禅フォトギャラリー、2015年)、『TEKIYA 香具師』(地湧社、2017年)、『LOTUS』(野草社、2024年)など。2007年、銀座・大阪のニコンサロンで写真展「Early Works: 全共闘の季節」を開催。2013年に東京都写真美術館「日本写真の1968」展、2017年に国立歴史民俗博物館「1968年 -無数の問いの噴出の時代-」展、2018年に千葉市美術館「1968年 激動の時代の芸術」展、2021年に国立台北芸術大学関渡美術館「PROVOKE 挑釁世界 — 對中心主義的反抗」、2024年に埼玉県立近代美術館「アブソリュート・チェアーズ」に作品を出品。2024年夏にアルル国際写真祭で開催される「I’M SO HAPPY YOU ARE HERE - JAPANESE WOMEN PHOTOGRAPHERS FROM THE 1950S TO NOW」展にも作品出品を予定している。

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