禅フォトギャラリーは2025年12月5日(金)から2026年1月24日(土)まで、中国写真家・莫毅個展「時間的風景」を開催いたします。禅フォトギャラリーでの個展としては5回目となる本展では、1982年チベットから天津に移住してから密集した団地風景に強い衝撃を受け、1995年に記録に残したシリーズ「時間的風景」からモノクローム写真25点を展示いたします。撮影から30年後の今回が、世界初の展示となります。
1995年以前の中国では、住宅の数が圧倒的に足りなかったため、結婚して独立したい若者たちのほとんどは、両親と同居し、狭い空間で肩を寄せ合って生活せざるを得ませんでした。1980年代から住環境を改善するための政府による都市基盤の整備は、少しずつ規模が拡大していきました。1995年前後になると、天津では元々平屋に住んでいた人々のおよそ五分の四が集合住宅へと移り住んでいました。平屋では水の使用が不便で、トイレもなく、共同トイレは遠く、朝になれば順番待ちの列ができる――一方で、当時の集合住宅生活は、暖房が装備されていない部屋の中で、リビング、トイレとキッチンをシェアしながら他人同士が共同生活する空間であって、今から見るととても豪華とは言えないのですが、平屋生活と比べれば、当時の集合住宅生活は天地がくつがえるという変化でしょう。
外観が全く同じ建物が並ぶ団地の中では、そっくりな玄関、そしてどの部屋も同じ造りの窓が並んでいました。その中で均一さを打ち破るような個性的なものに莫毅は目を奪われました。写真に写っている子供が使っていた三輪車や、ハニカム石炭、水がめ等時代遅れで使い道がなくなったにもかかわらずなぜか捨てられなかったそれらは、持ち主の過去を語りつつ、過ぎ去った時間の象徴として、また日常風景における時代の変化を映すものとして記録されています。

数年後、私はあの頃の団地を通りかかった時、当時の建物自体はもうすでに取り壊され、一部は金融街に、一部は高級住宅へ、または公園へと変わっていました。引っ越しの時、彼らはあのハニカム石炭、あるいは二人がかりでやっと運べた大きな水がめを、また持って行ったのだろうか。冬になると、家々の玄関先にハニカム石炭を並べ、新聞紙を敷き、その上に白菜や長ねぎを置いた、あの風景はもうどこにもないのだろうか。
――莫毅 2025年秋

Artist Profile

莫毅

莫毅(モ・イー1958年チベット生れ)元サッカー選手、現在はフリーランス写真家。80年代、天津を拠点に活動していた。その後、チベットや北京等各地を転々とし、現在は中国江西省在住。1980年代に登場した中国現代写真の最も重要なアーティストの一人として広く知られ、都市生活における疎外感や抑圧をとらえた作品で知られている。彼の写真にはしばしば、作家自身が介入し登場することもある。莫はこれまでに、UCCA(北京、2024年)、写真美術館(ベルリン、2017年)、三影堂撮影芸術中心(北京、2010年)、および国際写真センター(ニューヨーク)などで開催された重要な巡回展「Between Past and Future: New Photography and Video from China」(2004–2006年)など、多くの美術館や芸術祭で作品を発表してきた。作品はヒューストン美術館(米国)、中国写真と映像アーカイブ(カナダ)と広東美術館(中国)などに収蔵されている。