京都市出身で東京をベースに活動する竹田武史は、日本人の精神文化のルーツを求めて中国やインドなどの歴史ある場所を旅し、そこに住まう人々を撮影し続けてきた。一方で、都としての長い歴史を誇る故郷の街・京都をどのように撮影するか、長年あたため続けてきた本プロジェクトをコロナ禍に出会った旧ソビエト製のパノラマカメラにひらめきを得て、モノクロームのパノラマ風景100点としてまとめた。

「今から500年前、嵯峨野にあった遍照寺というお寺の庭で、剣聖・塚原卜伝は、「映るとも月も思わず 映すとも水も思わぬ 広沢の池」という歌を詠んだという。「月は(水に)映ろうとも思っていないで、ただ映っている。水も(月を)映そうとは思わないで、ただ映している。」戦国の世を生きた剣聖は、生死を分かつ真剣の立ち合いを、互いを意識せずに融け合う月と水の姿に表したのだ。では、この歌が示す自他の境界を越えて生命を内から把握しようとするものの見方を、「写真」の作法として捉えることはできないだろうか。ヨーロッパで生まれたPhotographの語源はPhoto=光、graph=描くである。ところが、Photograph=「光画」は日本へ渡来すると「写真」と訳された。おそらく、当時の日本人の感性には「光画」よりも「写真」の方がしっくりくる何かがあったのだろう。世界とは何か、写真とは何か…内なる魂の声は私をふるさとへ誘い、日本的な、延いては東洋的な感性の、さらなる源泉へと導いてくれたような気がしている。」
― 竹田武史(本書あとがきより)

-判型
125 × 250 mm
-頁数
120頁、掲載作品100点
-製本
ソフトカバー
-発行年
2025
-言語
英語、日本語
-エディション
500
-ISBN
978-4-910244-42-6

Artist Profile

竹田武史

1974年、京都生まれ。同志社大学神学部卒業。大学在学中に一年間休学し、一眼レフカメラと共にオーストラリア大陸を放浪一周する。帰国後は写真家・井上隆雄に師事。1997年、日中共同研究プロジェクト「長江文明の探求」に記録カメラマンとして参画、中国各地を5年間にわたって取材する。2001年、フリーランスとして独立。日本人の精神文化のルーツを求めて中国、アジアへの旅を続ける。2010年、コニカミノルタフォト・プレミオ大賞、2014年、京都府文化賞奨励賞受賞。主な出版物に、『大長江~アジアの原風景を求めて』(2005年、光村推古書院)、『茶馬古道の旅~中国のティーロードを訪ねて』(2010年、淡交社)、『シッダールタの旅』(2013年、新潮社)、『桃源郷の記~中国バーシャ村の人々との10年』(2015年、新潮社)、『長江 六千三百公里をゆく』(2021年、冬青社)などがある。

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