禅フォトギャラリーから刊行された『旅人』『続』に続く『旅人』三部作の最終篇。2018年に三部作の最初の一作目となった写真集『旅人』を刊行して以来、禅フォトギャラリーは西村の写真に対する姿勢を反映させながら、彼女の60年代の初期から近年に及ぶ未公開作品を包括的に紹介してきた。本作『あれから』は、国内外を旅した際に撮り続けてきたスナップショットを中心に、西村が90年代から直近の2022年に撮り下ろした新作を含めた写真集。作者が敬愛するチェコスロバキア出身の写真家・ジョセフ・クーデルカへのオマージュ作品でもある。

「写真学校の学生だった1968年頃から、興味のある事や人や物を自分の好きなように写真に撮ってきた。それは心地良い体験だった。[......]
好きな写真家はジョセフ・クーデルカだ。初めてジプシーの写真を見た時、まず真摯なものの見方に感動した、というより衝撃を受けた。自分が被写体と向き合った時の理想の姿を見た気がしたのだ。
2011年、チェコへ行った。クーデルカは1968年8月プラハで、ソビエト連邦主導によるワルシャワ条約機構軍の軍事介入を撮影している。『プラハ侵攻 1968』で有名な写真、手前に腕時計、突き当りに国立博物館が見えるヴァーツラフ広場で、写真を撮ってみたいと思った。結局、私の撮った写真は腕時計の代わりに、女の背中になってしまったのだが。[......]
劇団状況劇場から始まり、秀でた個性ある人々と出会い、そして旅に出て写真を撮ってきた。今はまだ、自分が旅の途上に佇んでいる気がする。」
― 西村多美子『あれから(My Journey III. 1993-2022)』あとがきより抜粋

― 出版社説明文より

Artist Profile

西村多美子

1948年東京生まれ、1969年東京写真専門学院(現東京ビジュアルアーツ)卒業。在学中に唐十郎率いるアングラ劇団「状況劇場」の舞台に通い、麿赤児や四谷シモンなどを撮影し、復帰前の沖縄へ初めての一人旅へ出る。卒業後、森山大道、多木浩二、中平卓馬というプロヴォーク運動で大きな影響力を持った3人と出会い、1970年まで暗室で彼らの制作を手伝う。1973年にそれまで北海道、東北、北陸、関東、関西、中国地方を旅して撮影したものをファースト写真集「しきしま」(東京写真専門学院出版局)として刊行する。

バイトや雑誌の仕事で旅費を貯め、1970年から80年代にかけて日本各地を旅し、また娘を連れて東京なども歩いて撮影している。1990年代以降は近代化画一化された日本を飛び出して、ヨーロッパ、南米、東南アジアなど海外を撮影した。

西村は写真を撮り始めた68年頃から現在に至るまで、半世紀を超える作家活動歴の間、一貫してフィルムで撮影し、自ら暗室でプリントを制作するという姿勢を変えていない。西村の写真は、詩的でスピリチュアル、そして深く個人的なものである。西村は自身のキャリアを振り返り、「旅の連続」と表現し、遊牧民のような人生観で写真を撮り続けてきた。旅が秘めているものを明らかにする彼女の写真は、旅先で出会う人生の多様な肖像である。

主な出版物に『しきしま』(東京写真専門学校出版局、1973)、『熱い風』(蒼穹舎、2005)、『実存1968-69状況劇場』(グラフィカ編集室、2011)、『憧景』(グラフィカ編集室、2012)、『しきしま 復刻新装版』(禅フォトギャラリー、2014)『猫が・・・』(禅フォトギャラリー、2015)、『舞人木花咲耶姫 — 子連れ旅日記』(禅フォトギャラリー、2016)、『旅人』(禅フォトギャラリー、2018)、『旅記』(禅フォトギャラリー、2019)、『続 (My Journey II. 1968-1989)』(禅フォトギャラリー、2020)等。香港M+美術館に作品が収蔵されている。

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