「山谷」へは日雇い稼ぎに通った。高円寺の6畳1間の間借りから始発に乗って立ちんぼをした。  「山谷」を撮りたかった。ガードレールに腰かけている様子、賭け事に屯ろするところ、立飲み屋、札を切って人を雇うところ、宿泊所などは撮影が困難だった。他人の介入を嫌うので、何かあると不穏な空気になる。紙の手提げ袋に穴をあけてレンズを出して「盗み撮り」をした。

— 橋本照嵩

橋本照嵩は自身の故郷である東北とその他の地方を撮った写真で知られる存在であるが、60年代に若き青年として初めて東京にやってきた頃、山谷に住み、日雇い労働者としてある期間働いていたことがあった。その後、彼は写真を撮るために山谷に戻った。

— マーク・ピアソン

『山谷 1968.8.1 - 8.20』は昭和中頃のコンパクトでシンプルな写真集をイメージし、わら半紙のようなざらつきのある紙面に橋本照嵩が撮った50年前の姿を再現した。

Artist Profile

橋本照嵩

1939年宮城県石巻市生まれ。1963年日本大学芸術学部写真学科卒業。1974年、写真集『瞽女』出版(のら社)にて日本写真協会新人賞受賞。同年、荒木経惟、中平卓馬、深瀬昌久、森山大道らとともに「15人の写真展」(東京国立近代美術館)へ参加し「瞽女」を出品。作品は国立近代美術館へ収蔵された。1979年から1981年には韓国を精力的に訪れ李朝民画を撮影した。2011年に被災した故郷の石巻へ定期的に帰郷し撮影を続けている。近年は「瞽女」シリーズを中心に国内外を問わず多数の個展を開催しており、主なものに禅フォトギャラリー(東京、2023年)、池田記念美術館(新潟、2022年)、AN-A Fundación(バルセロナ、2023年)などがある。主な出版物に、『北上川』(2005年、春風社)、『石巻-2011.3.27〜2014.5.29』(2014年、春風社)、『西山温泉』(2014年、禅フォトギャラリー)、『新版 北上川』(2015年、春風社)、『叢』(2016年、禅フォトギャラリー)、『山谷 1968.8.1-8.20』(2017年、禅フォトギャラリー)、『瞽女アサヒグラフ復刻版』(2019年、禅フォトギャラリー)、『瞽女』(完全版、2021年、禅フォトギャラリー)、『石巻 1955.6-1969.5』(2023年、禅フォトギャラリー)などがある。

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