人物と風景が表裏一体のものである

1945年山形県に生まれた鬼海弘雄は、映画青年として学生時代を送った大学で哲学を修めた後、トラック運転手、マグロ漁船の乗組員など様々な職業を経験する。その生活の中で、写真家ダイアン・アーバス(Diane Arbus)の作品と出会い、一転して写真家として身を立てる決心をする。

1973年から撮り続けている、浅草で偶然出会った人々のポートレートをまとめた写真集『王たちの肖像』(1987)、『PERSONA』(2003)、『東京ポートレート』(2011) において、鬼海の写真は観者に強烈な印象を与えている。

「東京という雑多な町の中で、あえて人の姿を画面に入れずに風景を撮ってみようと思いついたのは、私が浅草で出会った人々のポートレートを撮り始めて、しばらくたった頃だった」と語った鬼海。「空間のポートレート」と名付けた写真は、人の姿を写さずに、この場に醸し出された"人の影"や"人の営みの匂い"の風景写真である。

本展では、"物"だけで"語った"町のポートレート『東京迷路』から厳選されたモノクロ作品約15点を紹介する予定。