私は子供の頃の伊藤大輔が知りたい。彼は愉快で、エネルギッシュで、打算がなく、喜びに満ち溢れている。クセのある性格の持ち主であり、それは我々が日本人に対して抱く以前のイメージとは程遠 くかけ離れている。私が片言の日本語を話し、スペイン語を理解できないということを彼も最初から知っている。しかし意思疎通をはかろうとする際、理性を失 うほどに彼の親切心があまりに強過ぎる為か、日本語ではなくスペイン語で話しかけてくる。そして彼は少し落ち着き、我々は日本語で話し始める。

伊藤大輔は子供の頃からこんな感じだったのか?中南米で7年も育った年月が彼のこんな人格を形成したのか? それとも、彼は成長段階で中南米で生きる必要性を感じ、そこで生きる必要があったのか?

彼はリオ・デ・ジャネイロのファヴェーラ(スラム街)に4年も住み、メキシコでは娼婦の写真を撮り、キューバではLosolmo gymの写真を撮った。Losolmo gymはSantiagoというキューバ第二の都市にある。少年たちは裸足で練習し、ぼろきれ同然の服を着ている。設備は粗末で、リングフロアーはちぐは ぐに繋ぎとめられており、ロープは擦り切れている。しかし辛うじてやれるだけの設備はあり、4人の世界チャンピオンを輩出している。

写真は格別にロマンティックであり美しい。貧困にあえぐキューバの少年たちの一人一人が、チャンピオンになるという夢を持っている。富や名誉のためでもない。ボクサーになること自体が、彼らにとっては最も崇高で勇ましい野望なのである。

ー マーク・ピアソン(禅フォトギャラリー)

Artist Profile

伊藤大輔

1976年仙台市生まれ。明治大学卒業後、スペイン・バルセロナのIDEPにて2年間写真を学ぶ。その後中南米に渡り、ブラジル・リオ・デ・ジャネイロのスラム街にて活動を開始し写真家となる。2013年よりGLIDERメンバーに参加。

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