石川真生「港町エレジー」
1983年、夫と離婚した私は当時30歳。一人娘を抱えて写真だけで食べていく自信のなかった私は、安定した収入を求めて居酒屋を経営することに決めた。貨物船が行き交う港町、那覇市の安謝新港のすぐそば、住宅街のど真ん中に店を構えた。
店には、港湾労働者とウミンチュを中心に男たちが客としてやってきた。彼らは、大声でウチナーグチで語り合い、大いに酒を飲み、時にはケンカしたりと、店はにぎやかだった。
客の一人、港で働く男と私は恋仲になり、やがて店の近くのアパートで暮らすようになった。近くに古い小さな一軒家があり、妻子に逃げられた男が一人で住んでい た。その家には、どこからともなく男たちが集まって来ては、一日中酒を飲み、ケンカをし、男だけの世界を作っていた。
コワモテの男たちがたむろするその家には誰も近づかなかった。私の男は、毎日その家に出入りしていた。恐いもの見たさの好奇心おう盛な私は、彼にくっついてその家に出入りし、男たちの写真を撮り始めた。たとえ目の前で殴り合いのケンカが始まろうと何しようと、私は黙ってただシャッターを押し続けた。
ー石川真生