禅フォトギャラリーは、3月29日(金)から4月20日(土)まで、原田直宏写真展「Tokyo Fishgraphs | 2020」を開催いたします。2018年に禅フォトギャラリーより「三つ目の部屋へ」を発表後、2020年のオリンピック開催に向かう東京を記録するために制作された本作は、現在パリとバーゼルに拠点をおく出版社LibrarymanよりLibraryman Awardを受賞、2022年同社より写真集が出版されました。この度は写真集から今回の展覧会のために制作されたプリント16点を展示いたします。

2024年、パリでは実に100年ぶりとなる夏季オリンピックの開催が控えている。 振り返ると2020年、前回開催都市、東京では予期せぬパンデミックが猛威を振るい、多くの人々の開催への努力と感染拡大防止の真摯な意見の板挟みの中、長期に渡る「触れ合わない」努力を経て、最終的に1年の延期の後、東京大会の開催に漕ぎつけることが出来た。私は2018年末から東京を世界に見てもらうという主題のもと、オリンピックの準備期間、開催期間を通して、当時の東京に少しの愛と皮肉を交えた作品を完成させることが出来た。今年のパリオリンピックの前哨戦として、この作品で少しだけ2020年前後の東京の不思議な記憶を振り返って貰えたらとても嬉しい。

以下、当時書き下ろした作品の説明文を添えたい。

この作品は「日本の視覚文化の奇抜な根源性の探求」を主題に、一年の延期を経て、無観客開催となったオリンピックへ向かう東京を、伝統的な手法を交えながら演出的に記録した試みである。
私はこの期間のとても奇妙な経験を、日本の歴史と伝統を踏まえ、ユーモアを配した現代の見立絵としてまとめることにした。見立絵とは「ほのめかし」「洒落」「ずれ」など、遊びや機知に富んだ表現を用いて、歴史や伝承的故事を現代になぞらえて、時に面白可笑しく表現する、日本美術の中の浮世絵の一種である。
この見立絵には下記三つの主題が配置されている。

「歌川広重」
世界的に著名な絵師、歌川広重は浮世絵の傑作「名所江戸百景」で、江戸から東京へ繋がる江戸の名所の代表的なイメージを描き、世界中へ広げた。
彼は「魚づくし」という作品で、江戸時代の魚達の姿を美しく残した絵師でもあった。

「魚」
魚は海に面する東京の重要な食文化としてだけではなく、日本の芸術文化の中でも魅力的な主題であり続けた。
私は東京の魚屋を訪れ、寿司や日本料理で使われる様々な魚たちを、文化的なモチーフとして組み合わせ、広重の名所江戸百景で描かれた場所を訪ね、木製大判カメラで撮影した。

「東京はもぬけの殻」
2020年から2021年、人同士の対面が控えられ、殆どの人間が大都市の路上から消滅した。それはとても非現実的な光景であった。

2020年、もし当初の予定通りに東京オリンピックが開催されていれば、私が撮影した魚達は、世界中の旅行者に寿司として美食されていたかもしれない。
― 原田直宏

Artist Profile

原田直宏

1982年、東京生まれ。2010年、早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。2011年に新宿と大阪の ニコンサロンで初の個展「泳ぐ身体」を開催。2014年にBankART Studio NYK(横浜)にて開催された「Group exhibition vol.2 HAKKA」に参加し、同年禅フォトギャラリーで個展「泳ぐ身体」を開催し、同名の写真集を刊行。2016年には東塔堂「REMIXING GROUND 混在する都市 ヨハネスブルグ×東京」(Andile Buka と共同企画展)に参加した。2018年にカラーの新刊写真集『三つ目の部屋へ』を禅フォトギャラリーより刊行し、禅フォトギャラリー、梅田蔦屋書店などで個展を開催。2022年にはコロナ禍で制作した「Tokyo Fishgraphs | 2020」がLibraryman Awardを受賞し、同名の写真集を刊行するなど、国内外で活躍している。