『幻影』はシリーズ『幻視遊間』として1987〜92年に撮影されたシリーズで前シリーズの「砂丘モード」(1983〜90年)と同様にカラーポジフィルムを使用しているがカメラはPENTAX645を使用した重露光による作品で構成されている。シリーズ終了後西武美術館と大阪のPICTURE PHOTO SPACEで写真展が開催されたが『植田調』と大きく異なる作風の変化に多くのファンから「これ、本当に植田正治の写真?」と言う言葉が出たと言われている。しかしながら撮る側から見ると作風が変わったのは『童暦』(1955年〜70年)からであって、初期の作品『シルエット』(1936年)、『小さな漂流者』(1948年)は『幻影』の原型のように思えてならない。

生前、植田正治は「僕は静物に始まって静物に終わるんだ」と言っていたがその言葉の通り初期の作品は静物写真であり、名作として知られる1939年に発表された『少女四態』も少女のポートレイトではなく桑原申子雄(『カメラ』編集長)が『平面・平行・平列』とその構図を絶賛したように植田正治にしてみれば『静物』写真であったと思われる。

ー『幻影』プリンティング・ディレクター 五味彬