親が私を産んだ歳よりずっといってから子どもが産まれた。私の二世だ。同じころ、年老いた父が癌にかかった。その治療方法を調べるうちに、癌に冒された人が集うという東北の谷のことを知った。山に埋まった岩から強力な放射線が飛び出し、川は沸騰して流れている。モウモウと湧き上がる煙の切れ間から、山を中心に人が点々と横たわっているのが見える。その光景を初めて見たときに私は涅槃図を思い出した。寝そべる仏陀を中心に十名の高弟たちが思い思いの格好で過ごす絵は、煩悩が消え去って悟りが完成された最終境地を表すという。

すべてが剥がれ落ちた人たちから苦悩や焦りは感じられない。性別さえ薄らいで、安寧な世界への準備と循環する生への期待を思わせる。一段上に形なく存在しているかのようなこの場所に私は通いはじめた。徘徊し、ゴツゴツした岩に座ってゆっくりと息を整え、父や幼い息子のことを考える。

― 山縣勉、あとがきより

Artist Profile

山縣勉

1966年東京生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒。公益社団法人日本写真家協会会員、公益社団法人日本写真協会会員。主な個展に「国士無双」(2012年禅フォトギャラリー)、「Thirteen Orphans」(2013年Colorado Photographic Arts Center/コロラド)、「涅槃の谷」(2016年禅フォトギャラリー、2017年gallery176/大阪)、主な出版物に『Bulgarian Rose』(私家版、2011年)、『国士無双』(禅フォトギャラリー、2012年)、『涅槃の谷』(禅フォトギャラリー、2016年)、新装版『国士無双』(Case Publishing & 禅フォトギャラリー、2017年)などがある。2018年にはAthens Photo Festival “Pale Red Dot” に参加するなど国際的に活動している。作品はニューメキシコ大学美術館、ディーアール・バウ・ダジ・ラッド・ミュージアム(ムンバイ)に収蔵されている。

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