山縣勉「涅槃の谷」
禅フォトギャラリーでは、12月17日(土)から2017年2月4日まで、山縣勉新作展「涅槃の谷」を開催いたします。4年ぶりの個展となる本展では、およそ25点の作品を展示します。展示は2回に分け、第1期は12月17日から24日、第2期は2017年1月10月から2月4日となります。展示構成や一部の展示作品を変え、それぞれの世界観をご堪能頂けましたら幸いです。
親が私を産んだ歳よりずっといってから子どもが産まれた。私の二世だ。同じころ、年老いた父が癌にかかった。その治療方法を調べるうちに、癌に冒された人が集うという東北の谷のことを知った。山に埋まった岩から強力な放射線が飛び出し、川は沸騰して流れている。モウモウと湧き上がる煙の切れ間から、山を中心に人が点々と横たわっているのが見える。その光景を初めて見たときに私は涅槃図を思い出した。寝そべる仏陀を中心に十名の高弟たちが思い思いの格好で過ごす絵は、煩悩が消え去って悟りが完成された最終境地を表すという。
すべてが剥がれ落ちた人たちから苦悩や焦りは感じられない。性別さえ薄らいで、安寧な世界への準備と循環する生への期待を思わせる。一段上に形なく存在しているかのようなこの場所に私は通いはじめた。徘徊し、ゴツゴツした岩に座ってゆっくりと息を整え、父や幼い息子のことを考える。
ー山縣勉