禅フォトギャラリーでは、3月25日[土]より4月22日[土]まで甲斐啓二郎写真展「綺羅の晴れ着」を開催いたします。国内外の伝統的な祭り、特に大勢の参加者による激しい動きを伴う格闘的な祭事を長年撮影し、2020年に『骨の髄』(新宿書房)として写真集にまとめた甲斐啓二郎が、日本各所の裸祭りを取材した新刊写真集『綺羅の晴れ着』を禅フォトギャラリーより刊行する運びとなり、この度はそれを記念した展覧会となります。展覧会では写真集より選りすぐりの作品を展示いたします。

甲斐啓二郎のレンズを通して現れるのは、ハレの夜の熱気である。古来より続く伝統行事の記録として貴重なことはこの上ないが、この写真集にはそれだけにとどまらない、別の次元があるように思う。それは個と群衆の関係や、撮影という行為にまつわる不可知の領域について考えさせるものである。ひとことで言えば人間の行動を扱うという意味での、人類学的な次元である。ー 港千尋 (写真家) 写真集寄稿文「闇の奥へ」より

みればわかるが、参加者ははだかである。衣服を脱ぎ捨て、身体の自由を得たはだかの参加者が、咆哮し踊り、汗や体臭を互いに撒き散らし、肉と肉をぶつけ合う。私はその混沌の中に身を投げ出し、がむしゃらに撮影している。その群衆の中にいると、体臭は出どころがわかりにくい分、咆哮する声や汗よりも、妙な存在感があり不気味に感じる。だから、汗で濡れた肌と肌が触れ合い体臭が群衆を覆う時、心地悪さと同時に恐怖心が芽生えてくる。その心地悪さと恐怖心は、そこにいる者の感覚を鋭敏にし、意識や自我が引き剥がされた、わたしであってわたしでない身体を呼び覚ます。社会の中で生きている意味や目的(そんなものが最初からあるのかわからないが)は吹き飛び、野性をむき出しにするのである。ー甲斐啓二郎 写真集あとがきより

Artist Profile

甲斐啓二郎

1974年、福岡県生まれ。1997年、日本大学理工学部海洋建築工学科卒業。2002年、東京綜合写真専門学校卒業。現在、同校非常勤講師。スポーツという近代的概念が生まれる以前の世界各地で伝統的に行われている格闘的な祭事を、そのただ中に身を投じながら撮影し、人間の「生」についての本質的な問いに対して写真で肉薄する作品を発表している。Daegu Photo Biennale(2016年、韓国)、Taipei Photo(2018年、台湾)、Noorderliht International Photography(2019年、オランダ)、T3 Photo Festival Tokyo(2024年、東京)などのグループ展に参加。2025年のKyotographie京都国際写真祭では個展「骨の髄」を開催予定。22016年に写真展「手負いの熊」「骨の髄」にて第28回写真の会賞、2020年に写真集『骨の髄』にて第20回さがみはら写真賞、2021年に同写真展にて第45回伊奈信男賞を受賞。写真集に『Shrove Tuesday』(2013年、Totem Pole Photo Gallery)、『手負いの熊』(2016年、Totem Pole Photo Gallery)、『骨の髄』(2020年、新宿書房)、『綺羅の晴れ着』(2023年、禅フォトギャラリー)、共著に『<聖なるもの>を撮る-宗教学者と写真家による共創と対話』(2023年、山川出版社)がある。