有元伸也「TIBET」
禅フォトギャラリーは、4月5日(金)から4月27日(土)まで、有元伸也 写真展「TIBET」を開催いたします。
『TOKYO CIRCULATION』など、都市のスナップショットで知られる有元伸也ですが、デビュー作となったのはチベットを長期にわたり撮影した作品でした。当時まだ20代だった有元が、中国・インド・ネパールの国境を越えて拡がるチベット文化圏を駆け巡り、そこで出会った人々と寝食を共にしながら撮影した瑞々しいモノクロ作品を展示いたします。また会期に合わせて、長らく絶版となっていた有元のファーストフォトブックである『西藏より肖像』(1999年・ビジュアルアーツ刊)を新装版として再編、未発表作を追加収録し『TIBET』と改題して刊行いたします。4月6日には写真集『TIBET』のアートディレクションを担当したグラフィックデザイナーの伊野耕一氏をゲストに迎え、写真集刊行記念として作家とトークイベントを行います。二人が今までに影響を受けた写真集を持ち寄り、その作品について解説したり、本作りにおいてのこだわりについてお話しいたします。
写真学校を卒業して間もない二十歳の頃、半年間のインド滞在中に撮影したフィルム全てを盗難されるという悲運に見舞われた。その後、次なるテーマを模索すべく新たな旅を開始した僕は、偶然立ち寄ったネパールのカトマンズで或るチベット人の家族と出会う。巡礼者である彼らと食住を共にするようになってから、彼らの故郷であるチベットをこの目で見たいと思い始めた。しかしその矢先、かねてからの不摂生が祟り肝炎を発症して入院、そしてその検査中に心臓の不調も発覚して急遽帰国の途を余儀なくされる。
帰国してからというものは、日雇いの肉体労働で旅の資金を蓄え、チベット関連の書籍を読み漁り、チベット語を勉強して次の旅に備える日々が続いた。そうして一年後、思い焦がれたチベットの地を初めて旅した時の感動は今も忘れることがない。様々な偶然や不幸な出来事が重なってチベットに辿り着いたのだが、もしかすると、それらの出来事はチベットに出会うべくしてあったのかもしれないと思えた。
いちど空っぽになった容器を満たすかのように僕はチベットにのめり込み、気がつけば二十代の人生の大半はチベットと共にあった。
ー有元伸也