禅フォトギャラリーは、7月2日(土)から8月3日(水)まで、有元伸也個展「TOKYO CIRCULATION」を開催します。禅フォトギャラリーでの初めての個展となる本展では、有元が2006年から2015年まで発表し続けてきた「ariphoto」シリーズより、約50点のモノクローム作品を展示します。

有元は、初期の頃から一貫して、人間とその暮らしの環境に関心を向け、写真を撮り続けてきました。街を彷徨しながら写真を撮り続けるうちに、絶えず変遷する都市のなかにプリミティブな生命の営みを探るようになります。当初はチベットを主に撮っていましたが「写真家は自分の足下を撮らなければならない」と感じるようになると拠点を東京に移し、2006年より「ariphoto」シリーズとして、新宿を中心に東京の街を撮り続けています。

有元は、ビル等の直線的な構造やそこに暮らす人間を含む複合的な「都市映像」を撮りたいと考え、日本一の乗降者数を誇るターミナル駅であり、都庁を核に副都心として機能する新宿に着目し、その日常を撮るようになります。歌舞伎町に象徴される性風俗や暴力団の街といった典型的な新宿のイメージをなぞるのではなく、容易にカテゴライズされない都市の姿——建造物や人々等あらゆる要素を含む——を大量に撮り、無数なる「東京の肖像」を描き出しています。

有元作品のもうひとつの特徴は「セレクション」として定期的にシリーズを俯瞰し、整理、選出作業を行うことです。その過程でセレクトされた作品は、自主ギャラリーTOTEM POLE PHOTO GALLERYで発表されます。その年数回の発表のサイクルをとおして過去の作品や撮影に対する態度や姿勢を見直すことで、有元は自身の写真家としての変化や、都市に生きる人々と彼らの住む環境の変化・変遷を幾度となく再確認しています。

有元は現在も本シリーズを撮り続けており、作品数は増加し続けています。本展は「TOKYO CIRCULATION」というタイトルのもと、シリーズを「東京」を循環する一つの生態系として紹介します。この機会に是非ご高覧ください。また、展覧会に併せ、本シリーズの集大成となる写真集を同タイトルのもと、禅フォトギャラリーより刊行します。

東京に居を移してから20年の月日が過ぎたが、日々変化を続けながら増殖するように拡大してゆくこの街の姿は今なお魅力的で、決して飽きることなく新鮮に映る。しかしその一方、都市機能の増大の結果として、人間が本来持っていたであろう生物としての身体性は見え難くなった。かつて私は大地と共存して生きるチベットの遊牧民と寝食を共にし、彼等の肖像を写真に収めてきた。その彼等と比べた時、都市の利便性を享受する人々の姿は被写体として少し物足りなく感じてしまう。だが本当にそうなのだろうか?よく目を凝らし東京の街を観察してみると、そこには都市と共存しながらたくましく生きる人々の姿が見えるはずだ。芽生えた疑問と向き合うべく、都市に生きる生物としての人間の姿を追い求める日々が始まった。それから10年が経った今、私の目に映る東京は壮大な循環を持つ一つの生態系だ。

ー有元伸也

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Artist Profile

有元伸也

1971年大阪府生まれ。1994年ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年「西藏より肖像」にて第35回太陽賞を受賞し、翌年ビジュアルアーツより同名写真集を刊行した。2008年にTOTEM POLE PHOTO GALLERYを設立。2016年に『TOKYO CIRCULATION』を禅フォトギャラリーより刊行し、第26回林忠彦賞と2017年日本写真協会作家賞を受賞した。2019年には絶版となっていた『西藏より肖像』の新装版である『TIBET』を禅フォトギャラリーより刊行。その他の主な著作に『Tokyo Debugger』(2020年、禅フォトギャラリー)、『Tokyo Strut』(2022年、禅フォトギャラリー)、『ariphoto selection』No.1~10 (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)がある。2017年にはパリのLe Plac'Art Photoで個展を開催、また2019年にはドイツのMuseum Bautzenでの3人展「Am Rand der Gesellschaft. Barlach – Springer – Arimoto」 に参加するなど国際的にも活躍している。

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