「南へ連れて行ってくれないか?」その男は寝袋を2枚とウイスキーのボトルを持っていた。私は助手席にその男を乗せ、カリフォルニア・ルート101を南へと下って行った。

禪フォトギャラリーは、2016年6月8日から25日まで、新進気鋭の写真家・楠哲也による「AMERICAN MONUMENTS」を展示します。

1975年に生まれ、東京を拠点に活動する楠哲也は、3年半にわたる放浪生活の後、アメリカ合衆国西部やタイを移動しながら写真を取り続けています。写真を撮ることで、楠は被写体と対峙し、人間の尊厳、自由、空虚さや不条理を共有し、彼自身の情熱や野心と向き合っているのです。

本作「AMERICAN MONUMENTS」には、注目すべきアメリカのポートレートがおさめられています。それらのイメージは、アメリカ文化のステレオタイプの表象よりも、楠が2014年の秋から冬にかけてのロードトリップ中に遭遇した人々の多様なナラティブの提示だといえるでしょう。

私はアメリカにあこがれを抱いた最後の世代の一人として、リアルなアメリカを見てみたい思いに駆られ、大陸を車でひた走った。脳裏にぼんやりと残るノスタルジックな風景の合間に、私たちと同じく、ありふれていて冴えない、驚きのない平凡な生活をおくる人々を発見した。私のなかのアメリカのステレオタイプはかたちを変え、奇妙な親近感をもって私に迫ってきた。

ー楠哲也

作品に写る人物は、楠のリクエストによりポーズをとるものも多く、本作はいわば「ステージド・ポートレート」です。同時に、彼らはまるで映画のスティール写真のように生き生きと捉えられています。「私は何に導かれてここまでやってきて、これからどこに向かうのだろう?」楠は自身に問いかけます。楠はこのポートレートに取り組むことにより、彼自身の内なる旅とアメリカン・ドリームの現実を記録しています。

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