その景色の中、かつて私が母の手を繋いだ少女であった日のことを思い出す。
そして、私が星柄の帽子を被った少年であった日のことを想像する。

老人であった日の記憶を探しにいく途中、私の身体は突然、帽子になってしまう。空飛ぶ帽子になった私は、地を這う靴に憧れる。
靴となった私は少女の笑みを通り抜け、
誰かの千切れた背中にたどり着いた時、思い出す。

私が、父であったこと、母であったこと、老いていたこと、幼かったこと。
美しかったこと、醜かったこと、兄弟であったこと、友人であったこと。
恋人であったこと、他人であったこと、少年であったこと、少女であったこと。
笑っていたこと、泣いていたこと、楽しかったこと、怒っていたこと。

その全ては、目を閉じた暗闇の中に浮かんでいる。
静かな黒い膜面の中、私の身体は、泳ぎ続ける。彼らの中を。
そして、彼らの身体も泳ぎ続ける。私の中を。
いつか、私に出会う夢をみる。そして、あなたに出会う夢も見る。
私がカメラで撮り集めた暗箱の中からは、
幻のように、そんな街の音がカラコロ、カラコロ聞こえてくるはずだ。

ー原田直宏

Artist Profile

原田直宏

1982年、東京生まれ。2010年、早稲田大学芸術学校空間映像科卒業。2011年に新宿と大阪の ニコンサロンで初の個展「泳ぐ身体」を開催。2014年にBankART Studio NYK(横浜)にて開催された「Group exhibition vol.2 HAKKA」に参加し、同年禅フォトギャラリーで個展「泳ぐ身体」を開催し、同名の写真集を刊行。2016年には東塔堂「REMIXING GROUND 混在する都市 ヨハネスブルグ×東京」(Andile Buka と共同企画展)に参加した。2018年にカラーの新刊写真集『三つ目の部屋へ』を禅フォトギャラリーより刊行し、禅フォトギャラリー、梅田蔦屋書店などで個展を開催。2022年にはコロナ禍で制作した「Tokyo Fishgraphs | 2020」がLibraryman Awardを受賞し、同名の写真集を刊行するなど、国内外で活躍している。

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