原田直宏「泳ぐ身体」
その景色の中、かつて私が母の手を繋いだ少女であった日のことを思い出す。
そして、私が星柄の帽子を被った少年であった日のことを想像する。
老人であった日の記憶を探しにいく途中、私の身体は突然、帽子になってしまう。空飛ぶ帽子になった私は、地を這う靴に憧れる。
靴となった私は少女の笑みを通り抜け、
誰かの千切れた背中にたどり着いた時、思い出す。
私が、父であったこと、母であったこと、老いていたこと、幼かったこと。
美しかったこと、醜かったこと、兄弟であったこと、友人であったこと。
恋人であったこと、他人であったこと、少年であったこと、少女であったこと。
笑っていたこと、泣いていたこと、楽しかったこと、怒っていたこと。
その全ては、目を閉じた暗闇の中に浮かんでいる。
静かな黒い膜面の中、私の身体は、泳ぎ続ける。彼らの中を。
そして、彼らの身体も泳ぎ続ける。私の中を。
いつか、私に出会う夢をみる。そして、あなたに出会う夢も見る。
私がカメラで撮り集めた暗箱の中からは、
幻のように、そんな街の音がカラコロ、カラコロ聞こえてくるはずだ。
ー原田直宏