禅フォトギャラリーは、2021年最初の展覧会として1月14日から2月20日まで有元伸也写真展「Tokyo Debugger」を開催いたします。「Tokyo Circulation」(2016)、「TIBET」(2019)に続き、禅フォトギャラリーでは3回目となる今回の個展では、都市と共存しながらたくましく生きる生物としての人間の姿を長年とらえてきた有元が、2010年から2019年の間、都市部での撮影と並行して東京西部の山間部である奥多摩町や桧原村へ通い、かつて人の営みがあったであろう痕跡とそこに生息する虫たちをとらえたシリーズを発表いたします。本展のために新たに暗室で制作したモノクロプリント約20点を展示いたしますので、ぜひご高覧ください。

 二十余年にわたりポートレート作品を主に制作してきた私が虫の姿を中心とした作品を作ることに対し疑問を呈される方も多い。しかし前作『Tokyo Circulation』のステートメントにも「私の目に映る東京は、壮大な循環を持つ一つの生態系だ」との一文を記している。これは蜂という生物が作った緻密で計算された構造物〈蜂の巣〉を自然の一部とするならば、人間という生物が作り上げた都市もまた自然の一部と言えるのではないかという着想から得たものだった。  その前作と今作を「コインの裏表のような関係」と表現したことがあったが、例えば真っ白な一枚の紙には裏も表もないように、人間世界と虫世界も而二不二の間柄であり、この惑星に太古より暮らす小さな彼等のことを僕は敬意を込めて「虫先輩」と呼んでいる。また『Tokyo Debugger』というタイトルには「東京で虫(bug)を探す」という単純な意味と、地球の歴史において「デバッグ(取り除く)」される存在は果たして虫と人類どちらなのか?という隠喩を込めた。  ともすれば、人間世界なんてものは虫先輩の歴史に比べたら微々たるもので、彼らの世界に突然ひょっこり現れて、やがてひっそり消えてゆくだけの儚い存在なのかもしれない。

——有元伸也

Artist Profile

有元伸也

1971年大阪府生まれ。1994年ビジュアルアーツ専門学校大阪卒業。1998年「西藏より肖像」にて第35回太陽賞を受賞し、翌年ビジュアルアーツより同名写真集を刊行した。2008年にTOTEM POLE PHOTO GALLERYを設立。2016年に『TOKYO CIRCULATION』を禅フォトギャラリーより刊行し、第26回林忠彦賞と2017年日本写真協会作家賞を受賞した。2019年には絶版となっていた『西藏より肖像』の新装版である『TIBET』を禅フォトギャラリーより刊行。その他の主な著作に『Tokyo Debugger』(2020年、禅フォトギャラリー)、『Tokyo Strut』(2022年、禅フォトギャラリー)、『ariphoto selection』No.1~10 (TOTEM POLE PHOTO GALLERY)がある。2017年にはパリのLe Plac'Art Photoで個展を開催、また2019年にはドイツのMuseum Bautzenでの3人展「Am Rand der Gesellschaft. Barlach – Springer – Arimoto」 に参加するなど国際的にも活躍している。

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