禅フォトギャラリーは、10月22日から11月20日まで「地とひと」と題し、橋本照嵩・山縣勉・甲斐啓二郎によるグループ展を開催いたします。日本各地では古来より自らの住まう土地の神である地主神・鎮守神を祀る信仰が盛んでした。人々は自分たちの土地を通じてその場所を守護する神を祀ることで、何らかの恩恵を期待できました。連綿と育まれた土地と人との関係性や信仰の形はその後時代とともに変化していきますが、一方で現代においても人々を引きつけ、また人々に大きな影響をもたらし続ける磁場のような強い力を持つ場所が日本には存在します。今回はそうした場所と人との関係性にスポットを当てた展覧会となります。

 新潟県中部を中心に各地を門付けしながら巡った盲目の遊芸人・瞽女に密着し、旅を共にしながら撮影した橋本照嵩の「瞽女」は、自然豊かな土地の人々の暮らしと瞽女との関わりが非常に丁寧に描写されています。当時の撮影日記とその英訳を付記した204ページに及ぶ写真集『瞽女』のこの度の刊行に合わせ、未発表作品を含む選りすぐりの作品を展示いたします。

 父親のガンが発覚したことがきっかけとなり、山に埋まった岩から飛び出す強力な放射線にそうした病気の治療効果を見出す人々が集う秋田県の玉川温泉と出会い、撮影した山縣勉の「涅槃の谷」。地から湧き出る目に見えない強力なエネルギーが生物にとって有害とされながらも一方で人々の病いを癒す不思議な光景が、特別な手法を用いて制作された美しいモノクロームのプリントで表現されています。

 長野県の野沢温泉で古くから行われてきた、火をめぐる激しい攻防戦が繰り広げられることで有名な道祖神祭りを撮影した甲斐啓二郎の「手負いの熊」は、本来は厄年の払いや良縁祈願などの性格を持った祭りでありながら、あたかも神々の激しい怒りが乗り移ったかのような表情を浮かべながら戦いに挑む村人の姿が印象的です。

Artist Profile

橋本照嵩

1939年宮城県石巻市生まれ。1963年日本大学芸術学部写真学科卒業。1974年、写真集『瞽女』出版(のら社)にて日本写真協会新人賞受賞。同年、荒木経惟、中平卓馬、深瀬昌久、森山大道らとともに「15人の写真展」(東京国立近代美術館)へ参加し「瞽女」を出品。作品は国立近代美術館へ収蔵された。1979年から1981年には韓国を精力的に訪れ李朝民画を撮影した。2011年に被災した故郷の石巻へ定期的に帰郷し撮影を続けている。近年は「瞽女」シリーズを中心に国内外を問わず多数の個展を開催しており、主なものに禅フォトギャラリー(東京、2023年)、池田記念美術館(新潟、2022年)、AN-A Fundación(バルセロナ、2023年)などがある。主な出版物に、『北上川』(2005年、春風社)、『石巻-2011.3.27〜2014.5.29』(2014年、春風社)、『西山温泉』(2014年、禅フォトギャラリー)、『新版 北上川』(2015年、春風社)、『叢』(2016年、禅フォトギャラリー)、『山谷 1968.8.1-8.20』(2017年、禅フォトギャラリー)、『瞽女アサヒグラフ復刻版』(2019年、禅フォトギャラリー)、『瞽女』(完全版、2021年、禅フォトギャラリー)、『石巻 1955.6-1969.5』(2023年、禅フォトギャラリー)などがある。

山縣勉

1966年東京生まれ。慶応義塾大学法学部法律学科卒。主な個展に「国士無双」(2012年、禅フォトギャラリー)、「Thirteen Orphans」(2013年、Colorado Photographic Arts Center/コロラド)、「涅槃の谷」(2016年、禅フォトギャラリー・2017年、gallery176/大阪)、主な出版物に『Bulgarian Rose』(私家版、2011年)、『国士無双』(2012年、禅フォトギャラリー)、『涅槃の谷』(2016年、禅フォトギャラリー)、新装版『国士無双』(2017年、Case Publishing & 禅フォトギャラリー)、『観察 SURVEILLANCE』(2018年、Case Publishing & 禅フォトギャラリー)、『私の小さな宇宙』(2023年、禅フォトギャラリー)などがある。2018年にはAthens Photo Festival “Pale Red Dot” に参加するなど国際的に活動している。作品はニューメキシコ大学美術館、ディーアール・バウ・ダジ・ラッド・ミュージアム(ムンバイ)に収蔵されている。

甲斐啓二郎

1974年福岡県生まれ。2002年東京綜合写真専門学校を卒業。スポーツという近代的概念が生まれる以前の世界各地で伝統的に行われている格闘的な祭事を、その只中に身を投じながら撮影し、人間の「生」についての本質的な問いに対して写真で肉薄する作品を発表している。2016年Daegu Photo Biennale(韓国)、2018年Taipei Photo(台湾)、2019年Noorderlicht International Photography Festival(オランダ)などの国際展に参加。個展多数。主な出版物に『Shrove Tuesday』(TOTEM POLE PHOTO GALLERY、2013年)、『手負いの熊』(TOTEM POLE PHOTO GALLERY、2016年)、『骨の髄』(新宿書房、2020年)などがある。2016年、写真展「手負いの熊」「骨の髄」で第28回写真の会賞を受賞。2020年に写真集『骨の髄』にて第20回さがみはら写真賞を受賞。2021年、同写真展にて第45回伊奈信男賞を受賞。

Publications & Prints