禅フォトギャラリーは、12月6日(金)から28日(土)まで、薄井一議 写真展「昭和99年」を開催いたします。2011年に薄井が初の禅フォトギャラリーの個展にて発表した「昭和88年」以降、昭和シリーズとして4作目となる「昭和99年」は、フェデリコ・フェリーニの「甘い生活」からインスピレーションを受けたと薄井は語っています。主人公の自由奔放な乱痴気騒ぎの日々と、奥底に流れる宗教心、その両面に揺れ動き葛藤する姿。聖と俗、両極なものが一人の人間の中に存在する事への共感でもある、と。薄井の昭和四部作は、昭和がまだ続いていたらと言うパラレルリアリティを描いています。それは現代のコンプライアンスによる自主規制からくる善悪の二極化への疑問から始まり、清濁ひっくるめてどさくさの時代を必死で凌いで行った昭和的生き様への憧れから生まれています。

10年以上の歳月をかけて制作されたこのシリーズは、薄井が育った、今は消えつつある昭和の面影を残す場所を舞台にし、決してノスタルジーに偏らず、あたかも昭和が現在まで続いているかのように見る者を錯覚させます。アンダーグラウンド映画に出てくるような場所、そしてそこに暮らす人々、境界人、場所の気配、あるいは撮影者の想像の中の世界を描き出す薄井の写真は、そのイメージが現実なのか、それとも演出されたシーンなのかと鑑賞者は疑問に思うかもしれません。悲喜劇的で幻想的な現実とフィクションが混ざり合い、鑑賞者は写真の隙間に展開する物語を自身の想像で作り上げることが可能となっています。「猥褻と崇高」、「恐怖と滑稽」、「東洋と西洋」、「虚と実」、「生と死」といった、どこか人間の持ち合わせている矛盾、その二元の葛藤が薄井のイメージの中に埋め込まれています。

今回はインスタレーション形式により薄井一議の「昭和99年」のイメージ世界を禅フォトギャラリーに現出させる展覧会となります。また11月に刊行となった新刊写真集『Showa99』もお披露目となります。12月7日土曜日午後2時からは同じアーティスト・コレクティブphotography?end?の一員として薄井とともに活動する写真家の鈴木理策氏をゲストに招きトークイベントを開催いたします。是非お運びください。

昭和99年

泥中の蓮 泥から見るか 花から見るか、
聖と俗、その両面をかさね合わせて今を見る。

― 薄井一議

Artist Profile

薄井一議

1975年東京生まれ。1998年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。東京工芸大学在学中に写真家・細江英公のもとで写真の基礎を学び、初期シリーズ「マカロニキリシタン」などには細江作品の影響が見られる。主な個展に「マカロニキリシタン」(1996年コニカミノルタプラザ)、「Showa88/昭和88年」(2011年禅フォトギャラリー、2013年写大ギャラリー)、「Showa92」(2015年禅フォトギャラリー)、「Showa88-95」(2018年KKAG)、「Showa96」(2019年禅フォトギャラリー)がある。1997年にサンマリノインターナショナルフォトミーティング、2003年に東京都写真美術館で開催された「20代写真家の挑戦 IN&OUT」展、2016年にgalleri BALDER(オスロ)で開催された「A Vision of Japan」展、2022年にTEO Center for Culture, Art and Content(ヘルツリーヤ)で開催された「Inside Out: Through Japanese and Israeli Lenses」展、2024年にSchaefer International Gallery, Maui Arts & Cultural Center(ハワイ)にて開催された「FOCUS」展など、国内外のグループ展にも積極的に参加している。主な出版物に『マカロニキリシタン』(2006年美術出版社)、『Showa88/昭和88年』(2011年禅フォトギャラリー)、『Showa92』(2015年禅フォトギャラリー)、『Showa96』(2019年禅フォトギャラリー)、などがある。また2015年には映画「ダライ・ラマ14世」を企画・撮影した。清里フォトミュージアム (山梨)、東京工芸大学(東京)、株式会社アマナ(東京)に作品が収蔵されている。

Publications & Prints