禅フォトギャラリーは、10月27日(金)から11月18日(土)まで、殿村任香「ゼィコードゥミーユカリ」新装版刊行記念展を開催いたします。昨年、パリのLa MEP ヨーロッパ写真美術館の企画展「Love Songs」へデビュー作の「母恋 ハハ・ラブ」を出品し、その後同美術館に作品が収蔵され大きな注目を浴びた殿村任香。2013年、初の禅フォトギャラリーでの個展として殿村が「母恋 ハハ・ラブ」とともに発表し、二作目の写真集として刊行した作品がホステスとして過ごした新宿歌舞伎町を撮影したシリーズ「ゼィコードゥミーユカリ」でした。大きな話題を呼び絶版となって久しい本作を、オリジナル版未収録の作品と新たに書き下ろしたテキストを収録し、新装版としてこの度10年ぶりに刊行いたします。また、写真集より選りすぐりの作品を展示し、会期最終日には写真家で雑誌『写真』(ふげん社)編集長の村上仁一さんをお迎えしトークイベントを開催いたします。是非ご高覧ください。


「ユカリ、俺らは心を切り売りすることが仕事だっぺ」
と、栃木出身の店長はニカっと笑っていつも私に言いました。

新宿歌舞伎町。
私はこの街を燃やしつくしたいほど憎悪し、幾度となくこの街にへどを吐きました。
私が知るこの街は人の欲望の掃溜であり、連夜の宴は狂気に満ちていました。

歌がうまくて笑顔がかわいいあの子が死にました。

彼女の死も宴の中に消えていき、鈍くなっていく感覚に順応することがこの街での生きていく術でした。
人の欲望は恐ろしく、その欲望に触れると後戻りはできないことを私は知りました。
だから私はその欲望に触れる寸前でシャッターを切ったのです。

見てはいけない狭い闇。

見なくて済むのならば、見なくていいものがあります。
しかし、鈍くなった感覚を取り戻させたのもまたその闇でした。
闇に写る一筋の光を私は信じました。
人が生きることの希望をそこに見たのです。

私は歌舞伎町、六本木、銀座、赤坂と街を変え20年間ホステスとして働きました。
どの街にもその街の“質”がありましたが、歌舞伎町ほどシャッターを切った街はありません。

欲望と希望は紙一重です。

私はこの街で生きる人々に出会い、生きて行くことの希望を知ったのです。

新宿歌舞伎町

血、性器
見てはいけない狭い闇

私はユカリと呼ばれた

「俺らは心を切り売りすることが仕事だっぺ」

—殿村任香

Artist Profile

殿村任香

1979年生まれ。大阪ビジュアルアーツ放送・映画学科卒業後、2002年より写真を撮り始める。2008年、自身の家族の日常を赤裸々に撮った「母恋 ハハ・ラブ」を赤々舎より出版。鮮烈にデビューし、世間に重い衝撃を与えた。2013年には、新宿歌舞伎町でホステスとして夜の人々と生きながら撮った「ゼィコードゥミーユカリ」をZen Foto Galleryより出版し発表した。近年の著作に「orange elephant」(2015年、Zen Foto Gallery)、「cheki」(2018年、Morel Books)、「焦がれ死に die of love」(2018年、Zen Foto Gallery)、「SHINING WOMAN #cancerbeauty」(2020年、Zen Foto Gallery)、「母恋 ハハ・ラブ」新装版 (2021年、Zen Foto Gallery)、「Toxic」(2022年、Zen Foto Gallery)、「ゼィコードゥミーユカリ」新装版(2023年、Zen Foto Gallery)がある。

また、国内のみならず海外での活躍も目覚ましく、2016年には香港のBlindspot Galleryにて開催された「Shikijo: Eroticism in Japanese Photography」展、2018年5月にはロンドンのDaiwa Foundation Japan House Galleryにて開催されたグループ展などに参加し、2019年には、がんと闘い向き合う女性のポートレートプロジェクト「SHINING WOMAN PROJECT」を立ち上げた。2022年、パリのヨーロッパ写真美術館のグループ展「Love Songs」に出品した「母恋 ハハ・ラブ」が同館のコレクションとして収蔵された。また、同年のKYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭において開催された10人の女性写真家によるプログラム「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」や2024年のアルル国際写真祭アソシエイトプログラムにおいて開催された「TRANSCENDENCE」にも作品を出品している。

Publications & Prints

サイン入り

TOXIC

殿村任香